患者事例2ー休職後退職事例

 

石井さん (30代女性)
通信会社勤務(正社員)

2007年12月頃発症。深夜残業が続く中、数週間のうちにだんだん起き上がれなくなる。当初は 「うつ病」と診断され休職加療したが、症状改善なし。後日CFS診断がつき、身体面の就業配慮を受け、現在1日4時間の時短勤務で就労中。 




■本日お伝えしたいこと


私は通信系の会社に勤務している。
以前は休職していたが、いまは一日4時間の時短勤務で就労している。


時短勤務という制度がどの会社にでもあるわけではないことは理解している。が「時短を使って働いている患者がいる」ことをお話することで、慢性疲労症候群(CFS)患者の離職が「仕事が嫌になってやめた」等ではないこと 「働きたい気持ちはあるが、物理的に身体の調子が悪くて、生活に様々な制限が出ている」ことをご理解いただくきっかけになることを願う。


 

先にこの発表のゴールを明らかにしたい。
CFSが深刻な体の病気であることを伝える

 - 病名が悪く、健康な人の疲労と違うことが伝わりにくいが、れっきとした身体の病気である

産業医や企業関係者が、社員の慢性疲労症候群に対処できるようになること

 - 病院に行って一発で慢性疲労症候群だと診断がつくことは患者さんはまずいない。当初はうつ病などの精神疾患と診断されることが多い。 はじめの診断に対して、途中で「なにか違う」と感じたら一旦出た診断を見直すことが大切。 

 - CFSらしいとわかったら、はじめに精神疾患と診断されていた場合、精神疾患とは異なる対処が必要になることを、念頭においてもらいたい。
(回復の兆しが出るまでは、やたらと体を動かさないことが大切だと思う) 

 - 回復傾向が出てきたら復職にむけてどのようなサポートがいるか、ということを一つの具体的事例としてお伝えしたい。 

 




■私のケースでの診断名ー慢性疲労症候群と並存疾患

 

慢性疲労症候群(CFS)は、一般的な検査では異常がでないため、なかなか理解されにくい疾患である。 しかし、私のケースに関してはCFSをご存じない方 にとっても、「身体的な疾患なのだ」と納得できるような結果を持っていると思うので、それを最初に示したい。


まず、CFSには、様々な症状タイプの患者がいる。

自分は複数の先生より慢性疲労症候群と診断済みでCFSに該当する症状を持っている。

しかし、症状を追求するうち、私の場合は
起立性頻脈(POTS)
シェーグレン症候群(注:CFSとは異なる疾患名、自己免疫疾患の一つ)
自己免疫性の自律神経障害(抗ガングリオニックアセチルコリンレセプター(抗gAChR)抗体陽性) が起きていると最近判明した。

 


 

起立性頻脈(POTS)とは、起立性調節障害のひとつ。立っていると脈拍数が上昇。健常者は起立時に脈拍 数が10~20しか増えない。35以上増は病的とみなされる。45以上だと重症とされる。

ヘッドアップチルト試験(※1)実施。最初1分で47上昇、開始12分で60上昇。検査時間は20分だが、耐えられず危険なため12分で終了(横になれば戻る)。医師に立ってるだけで全力疾走してる状態と言われた。 


このPOTSにも色々なタイプがある。私の場合はメスチノン(神経に効く薬)が功奏。ここからたどって、 抗gAChR抗体が陽性だと判明した。(※抗gAChR抗体:自己免疫性自律神経節障害をもたらすといわれている、最近発見された自己抗体で、日本国内ではまだ1ヶ所でしか検査ができない)。

ここでは慢性疲労症候群には私のような症状タイプの患者もいる、という具体例をお伝えした。

さらに、これがわかるのには、発症から8年もの時間を要した。上記(様々な症状がなぜどのように起こってくるか)がわかっていなかった時、どう苦しんだか、またどのような対策が必要だったかを伝えたい。

 

※1:ヘッドアップチルト試験(検査)とは: 自律神経の調節異常がおこりやすいかどうかを確認する検査。患者さんに検査台の上に横になってもらい、検査台を起こして他動的に傾斜をつけることで、自律神経の働きを検査します。



■症状について

 

発症した時から、体調自体は、良くなったり悪くなったりしている。しかし症状自体は発症時からほとんど変わっていないのでスライドで列挙する。




■症状と対処療法ー私の場合


 

なお、最初の発症時(2007年12月頃)には「うつ病」と診断され、治療をしていた。それ以降も様々な精神疾患と診断された。

しかし、症状の出方を整理してみると、精神状態とは全く関係なく、良くなったり悪くなったりしている。またいわゆる「不定愁訴」ではなく、症状は規則性がはっきりしている。


立っていると体調悪化するが、横になると大丈夫 気温が高かったり、大気圧が低いと、労作の有無問わず体調悪化、気温が低い・大気圧が高いと平気

...など、なんらかの対処をすることで、CFSの症状が一時的に緩和される要素というものはある 


 

また、「CFS患者の運動」について色々言われることが多いが、(※運動療法。ストレッチなど軽負荷で体を動かすことから始め、徐々にウォーキング、水泳など負荷の強い運動を加え、身体機能回復を図る)私見では、たぶんウォーキングのような運動の仕方はやめた方がよいと思う。

CFS患者には具合が悪くなったらすぐ休める環境が必要。ウォーキングの場合、行ったら自分で帰ってこなければならない。すぐ休める狭い空間で、軽く体を動かす、というのはよいかもしれない。
 

 

また、「慢性疲労症候群」は、健康な人の「疲労」 とは明らかに異なる

元気だったときを100とすると、寝たきりの期間は活動量はほぼ0(トイレがやっとでほとんど動けない)。初め精神疾患と言われたが、やる気はあると見せたくて頑張ると、倒れて寝たきりに。 病院に行きたくても、あとが寝たきりになることを考慮しないと通院できない。

少しよくなって出かけては具合が悪くなり、寝たきりになる、を繰り返した。たぶん、出かけたりせず、あまり体を動かさなかった方がよかったのではないかと思っている。


 

2年ほど経って、「精神疾患ではないのではないか?」「慢性疲労症候群では?」と気づく。

2010年秋以降、慢性疲労症候群とわかり、自分の体調・症状にあった治療に変えていくことで、はじめて少しずつ体調が改善してきた。(自分の場合は、青竹踏みのような物理的療法、補中益気湯など)

その後現在は、メスチノン、ミニリンメルト(抗利尿ホルモン)と電動車椅子を使用するようになったことで、低空飛行ながら体調が安定するようになり、復職している。


■復職に向けてのステップーなくしてほしい、精神疾患との誤診

 

ここからは、復職につなぐステップの話をしたい。

まず、CFSと診断がつくことが必要だが、現状は CFSに知見のある医師が少なく、最初は精神疾患と診断されているケースがほとんど。つまり、CFSという診断に至るには、はじめの診断(精神疾患等)が違うかもしれないと思わないと進みようがない。

また、CFS患者を「とりあえず」「間違って」精神疾患とみなしてしまい、患者さんに抗うつ薬を使う と、患者さんを危険にさらす可能性もある。 


 

私の場合、最初の治療で体調がよくならず「難治性の精神疾患」と疑われ、トフラニール(三環系抗うつ薬)を処方されたが、効果ゼロで記憶障害など重い副作用のみが発生した (トフラニールはSSRIなどの抗うつ薬に比べて作用が強力で、抗コリン作用 (副作用)も知られている)。一方、重症筋無力症の検 査薬であるテンシロンでは、非常に元気になった。

アセチルコリンの受容体への結合を促進させるべきタイプのCFS患者に、抗コリン作用の強い抗鬱薬を処方すると、重篤な副作用につながりかねない。 患者さんの主訴が該当していないのに「みなし」で精神疾患の処方をしないように気をつけてほしい。 



■CFS患者の復職にあたって求めたい配慮と、最後に伝えたいこと

 

CFS患者が復職するには、まずは、精神疾患との誤診が減る方向に持っていかないといけない。

「CFSかも」という時。精神疾患の薬⇒効果の出な い場合には患者の主訴次第で疑う(目安:6週間)。

残念ながらCFS専門医は少ないが、CFSを疑ったときには専門医での診察を提案してみてほしい。

体調が上向くまでは「無理をして身体を動かさない」。早期発見・早期療養方法の変更が大事と思う。
 


 

復職時の、会社側の環境整備・安全配慮について。

まずは患者のヒアリングをすると思うが、多くの患者は休職当初は、精神疾患だと見なされた方が多いと思う。その先入観で「うつ病に決まっている」「他人とのコミュニケーションがストレスなはず」 などと決めつけ続けないでほしい。

 

(CFSとの診断がついた場合は、主に身体的な面でどのように安全配慮していくかが大切。具体的には 省エネで勤務できる方向性 


 

勤務時間の軽減(時短勤務)、物理的移を減らす(出張などのない、オフィスにいられる業務を)、補装具の利用による負荷軽減の提案、「早めに休む」休憩場所の用意等。

 「身体を動かせないから家から出られない」という点を医師・行政に認めてもらえないと、CFS患者は、必要な支援も受けられずに、家で寝たきりという「社会の中の透明人間」のような存在になる。

「患者自身が無理を押して啓発する」前に、医療・行政でもっとできることはあるのではないか。